妊娠中にトキソプラズマに初めて感染すると、まれではありますが胎児に感染を起こすことがあります。
トキソプラズマはヒト、動物に共通に寄生する病原性の原虫です。食肉やペット(猫が多い)、土などから口に入りヒトに感染するといわれ、日本では1〜2割以上の人が知らないうちに感染し、抗体を持っています。
成人が感染しても多くの場合、症状(かるいかぜ様の症状が出ることはある)は出現せずに過ぎてしまいます。
妊娠中にトキソプラズマに初めて感染すると胎児も感染する場合があります。
多くの成人はすでに感染して抗体を持っていますから、妊娠中に初めて感染することは多くはありません(10%以下)。抗体を持っていなくても、生肉の処理や、猫などのペットとのふれあいを防ぐだけでもリスクが回避できます。
生肉を多く扱う、ペットがいるなどの環境にある妊婦さんは抗体検査を受けておくと、過去にトキソプラズマに感染したことがあるか調べることができます。
妊娠中に初めて感染すると、その約3割に胎児感染が起こるという報告があります。胎児に感染した場合には流産したり、先天性トキソプラズマ症(小頭、水頭、小眼球,脳室異常、網膜脈絡膜炎、胎児発育障害、肝臓肥大など)、知的障害、視覚障害となることもあります。
スクリーニングの時期と方法
藤東クリニックでは、妊娠初期に全員に対し、母体血液のトキソプラズマ抗体を測定しています。
妊娠中に下記ようなリスクのみられる場合は要注意です。
- 不明熱、頸部リンパ節腫脹の既往
- 生肉の取り扱いを行う、加熱処理不十分な肉の摂取
- ガーデニング、田畑で土壌と接する
- ペットとの接触が頻繁
抗体の有無による対応
抗体価が陽性の場合は、過去の感染(胎児には影響しない)か、現在進行している感染かの鑑別をします。IgG抗体のavidityの検討で判断できる場合があります。
抗体陰性の場合は、感染が起こる可能性がありますから、妊娠中には感染するリスクのある行為(上記)を避けるようにします。
妊娠中に初感染したことが否定できない、あるいは初感染が疑わしい場合はアセチルスピラマイシン(抗菌薬)投与を原則として分娩まで投与します(1,200mg、1日4回に分けて21日間連日服用し続く14日間休薬)。
あわせて,胎児超音波検査などで頭蓋内所見、肝臓、発育状態などを検査します。
新生児への対応
出生直後に臍帯血でのトキソプラズマIgG、IgM抗体を測定します。疑診例は1歳時での検査も必要です。
顕性感染例(明らかな症状を伴う感染例)ではアセチルスピラマイシンを服用し、不顕性感染例でも必要に応じて同じ対応をしますが、小児科医師が対応することが大切です。
なお、新生児で先天性トキソプラズマ症を示す児の頻度は0.05%といわれています。