睡眠不足がメンタルヘルスに与える影響
現代社会において多くの人が直面している睡眠不足の問題。特に働く女性にとって、質の高い睡眠を確保することは日々のパフォーマンスやメンタルヘルスを維持する上で非常に重要です。藤東クリニックの動画シリーズ「働くあなたの心と体を守る方法」第4回では、睡眠とメンタルヘルスの関係について詳しく解説しています。
日本人の睡眠時間は国際的に見ても短い
厚生労働白書のデータによると、日本人の睡眠時間は他の先進国と比較して著しく短いことが明らかになっています。日本人男性の平均睡眠時間は466分、女性は457分と、アメリカ人男性の524分、女性の538分と比べると、1時間以上も短くなっています。
この睡眠時間の短さには、長時間労働や通勤時間の長さ、夜型化する生活習慣、スマートフォンなどの電子機器の使用などが影響していると考えられます。特に働く女性の場合は、仕事と家事や育児との両立により、十分な睡眠時間を確保することが難しいという現状があります。
睡眠時間とこころの健康の関係
睡眠不足は精神的な安定と深く関わっています。厚生労働白書のデータでは、睡眠時間とこころの状態をK6という指標で示しています。K6は心理的ストレスを含む精神的な問題の程度を表す指標で、点数が高いほど精神的な問題がより重い可能性を示します。
データによると、睡眠時間が「5時間未満」の方々では、心理的ストレスが低いとされる「0~4点」の割合が52.2%に留まっている一方、一定以上の心理的ストレスが推測される「10点以上」の方の割合は21.6%にも上ります。つまり、睡眠時間が5時間未満だと、5人に1人以上が強いストレス状態にある可能性があるのです。
逆に、睡眠時間が「7時間以上8時間未満」の方々では、「0~4点」の割合が78.4%と最も高く、こころの状態が比較的安定している方が多いことがわかります。
理想と現実の睡眠時間のギャップ
厚生労働白書の調査によれば、理想の睡眠時間として最も多かったのは「7時間以上8時間未満」で、全体の45.4%を占めています。しかし、実際の睡眠時間で最も多かったのは「5時間以上6時間未満」(35.5%)と「6時間以上7時間未満」(35.2%)でした。
理想と現実のギャップを見ると、「理想の睡眠時間より1時間不足」と感じている方が39.6%と最も多く、約7割の方が理想の睡眠時間を確保できていない状況です。
このような「睡眠負債」が積み重なると、徐々に心身に影響を及ぼします。調査によれば、理想より睡眠時間が2時間不足している方では、うつ傾向・不安がない方の割合は48.0%にまで低下し、3時間不足すると37.2%と、さらにリスクが高まることが分かっています。
プレゼンティーズム – 見えにくい生産性の低下
睡眠不足による日中のパフォーマンス低下は、多くの方が経験していることでしょう。このような状態を表す「プレゼンティーズム」という概念があります。
プレゼンティーズムとは、出勤はしているものの、睡眠不足を含む心身の不調が原因で、本来持っている能力を十分に発揮できず、生産性が低下している状態を指します。目に見える欠勤や休職(アブセンティーズム)とは異なり、周囲からは気づかれにくい問題です。
このプレゼンティーズムは、個人の健康を損なうだけでなく、企業側にとっても労働生産性の低下という形で経済的な損失につながるため、従業員が質の高い睡眠を確保できるような環境づくりは組織全体の課題としても認識されつつあります。
質の高い睡眠を得るためのアドバイス
質の高い睡眠を得るためには、以下のようなポイントが重要です:
-
生活習慣の見直し
- 毎日なるべく同じ時間に寝て、同じ時間に起きる規則正しい睡眠リズムを心がける
- 寝る前のカフェインやアルコールの摂取を控える
- 日中に適度な運動をする
-
寝室環境の整備
- 寝室は静かで、光を遮断し、快適な温度・湿度に保つ
- 寝る前のスマートフォンやパソコンの使用は控え、少なくとも就寝1時間前には終える
-
リラックス法の実践
- ぬるめのお風呂にゆっくり入る
- 軽いストレッチで体をほぐす
- アロマオイルを焚いて香りを楽しむ
- 心地よい音楽を聴く
女性ホルモンと睡眠の関係
女性の睡眠はホルモンバランスの変動に大きく影響を受けます。排卵後から月経が始まるまでの期間(黄体期)は、プロゲステロンという女性ホルモンの分泌が増えます。このプロゲステロンには眠気を促す作用があるため、この時期に日中も眠気を感じやすくなることがあります。
一方で、月経前や更年期には、女性ホルモンのバランスが大きく揺らぎます。それによって自律神経の調子が乱れ、寝つきが悪くなったり、夜中に目が覚めやすくなったりといった不眠の症状が現れることがあります。
月経周期に伴う睡眠の悩みや、更年期による不眠が続く場合は、産婦人科医に相談することをおすすめします。ホルモンバランスを整える治療法(低用量ピルの服用など)や漢方薬による体質改善が有効な場合もあります。
まとめ
日本人の睡眠時間は国際的に見ても短く、特に5時間未満の睡眠では、うつ傾向や不安のリスクが約22%にものぼるというデータがあります。多くの方が感じている「睡眠負債」が大きくなるほど、心の不調のリスクも高まります。
質の高い睡眠は、私たちの心と体の健康、そして日々の充実した生活に不可欠です。自分の睡眠習慣を見直し、必要に応じて専門家に相談することで、より健やかな毎日を過ごしましょう。
次回の「働くあなたの心と体を守る方法」シリーズでは、「職場や顧客との健全な関係のために」というテーマで、近年相談件数も増加傾向にあるハラスメントについて取り上げます。ぜひご期待ください。