「見えにくい・聞こえにくい」はうつの入り口?
突然ですが、最近ご自身やご両親について、こんなことはありませんか?
- 「最近、新聞の字が読みづらくて読むのをやめた」
- 「親の耳が遠くなって、会話をするのが少し億劫だ」
- 「『もう年だから仕方ない』が口癖になっている」
実はこれ、単なる「老化現象」として見過ごしてはいけないサインかもしれません。
令和6年版の厚生労働白書によると、こうした身体の不調(機能制限)が、メンタルヘルス(こころの健康)に深刻な悪影響を及ぼすというデータが発表されました。
今回は、産婦人科医の視点から、「身体の機能とこころの関係」について、最新の統計データをもとに分かりやすく解説します。
日本人の約12%が抱える「機能制限」とは?
まず、今回のテーマである「機能制限」という言葉についてご説明します。
これは、日常生活における以下の6つの機能について、「とても苦労する」または「全く出来ない」状態を指します。
- 視覚(見ること)
- 聴覚(聞くこと)
- 歩行(歩くこと)
- 認知(理解すること)
- セルフケア(身の回りのこと)
- コミュニケーション
調査によると、日本人の約12%(およそ8人に1人)が、何らかの機能制限を抱えていることがわかりました。
特に、平均年齢を見ると、機能制限がない人が51歳であるのに対し、ある人は66歳と、15歳ほど高くなっています。
これだけ聞くと、「やっぱり年齢のせいじゃないか」と思われるかもしれません。しかし、問題の本質はそこではありません。
【衝撃データ】うつリスクが4.6倍に!?
アメリカの疾病対策予防センター(CDC)の研究によると、機能制限(障害)のある人は、ない人に比べて、メンタルヘルスが悪化する頻度が「4.6倍」も高いという衝撃的な結果が出ています。
日本でも同様の分析が行われました。
「K6(ケーシックス)」という、うつ病や不安障害のリスクを測る点数(点が高いほどストレスが強い)で比較してみましょう。
- 機能制限がない人:平均 2.6点
- 機能制限がある人:平均 5.6点
このように、身体に不自由があるだけで、こころのストレス値は2倍以上に跳ね上がります。
「年齢のせい」ではありません
「高齢だから気が滅入るのでは?」という疑問に対し、今回の白書では「傾向スコアマッチング」という高度な分析が行われました。
これは、年齢や収入、持病などの条件を統計的に揃えて比較する方法です。
その結果、年齢に関係なく、「見えにくい・聞こえにくいといった制限そのもの」が、こころの健康を悪化させることが証明されたのです。
なぜ「身体の不調」が「うつ」を招くのか?
なぜ、目や耳の不調がそこまでメンタルを蝕むのでしょうか。
その答えは「孤独(関係性の貧困)」にあります。
データを見ると、特にK6の点数を悪化させている要因として、視覚や聴覚以上に「コミュニケーション」や「認知」の制限が大きく関わっていることがわかります。
- 耳が聞こえにくい・目が見えにくい
- 会話に入れない・相手の表情がわからない
- 人と会うのが億劫になる
- 社会から孤立する(関係性の貧困)
- うつ状態になる
身体の機能低下は、「人とのつながり」を断ち切ってしまうからこそ恐ろしいのです。
実際、悩みがあっても「相談相手がいない」場合、メンタル悪化のリスク(係数)は約2倍(3.14→6.00)に急増するというデータも出ています。
医師からの「こころの処方箋」
では、私たちはどうすればよいのでしょうか?
更年期以降、身体の機能が変化していくのは避けられません。しかし、こころまで弱らせないための対策はあります。
白書のデータでは、「健康のために何も対策をしていない」場合のリスクが高いことも示されています。
逆に言えば、対策をすればリスクは下げられるのです。
私からのアドバイスは2つです。
1. 補聴器やメガネは「こころの防具」です
「年寄りくさい」と敬遠せず、補聴器や老眼鏡、杖などを積極的に活用してください。
これらは単に機能を取り戻す道具ではありません。「人とのコミュニケーション」を取り戻し、孤独を防ぐための「こころの防具」なのです。
2. 親の「聞こえにくい」を放置しないで
もしご両親が「聞こえにくい」と言っていたら、どうか優しく、受診や補聴器を勧めてあげてください。
スムーズに会話ができる環境を整えることが、結果としてご両親をうつや認知症のリスクから守ることにつながります。
おわりに
身体のメンテナンスは、こころのメンテナンスです。
私たち藤東クリニックでは、女性のライフステージに合わせた身体とこころのケアを行っています。
更年期の不調や、ご家族のケアで悩まれたときは、一人で抱え込まずいつでもご相談ください。