家の救急箱が危ない?「市販薬オーバードーズ」と「若者の薬物事情」【厚生労働白書より】
日々の診療の中で、女性の体のことはもちろん、ご家族や思春期のお子さんについての悩みを耳にすることも少なくありません。
今回は、少しドキッとするテーマかもしれませんが、私たちの子どもたちを取り巻く「薬物」の現状についてお話ししたいと思います。
「薬物乱用」と聞くと、テレビの向こう側の出来事や、特別な環境での話だと思っていませんか?
しかし、厚生労働省が発表した最新のデータ(令和6年版 厚生労働白書)を読み解くと、その危険は「お子さんのスマホの中」や、なんと「家の救急箱」にまで迫っていることが分かります。
お母さん世代にこそ知っておいてほしい、若者をめぐる薬物の「リアル」。
今日は一緒に考えていきましょう。
■スマホ世代を狙う「大麻」の罠
近年、ニュースで「大麻」という言葉を耳にする機会が増えました。
政府もこの事態を重く見ており、最新の戦略で「サイバー空間の悪用」を新たな脅威として認定しています。
なぜ、今、若者の間で大麻が広がっているのでしょうか。
その背景には、SNSやインターネット上の「誤った情報」があります。
- 「大麻には有害性がない」
- 「海外では合法だから大丈夫」
- 「持っていなければ、使っても捕まらない」
スマホを通して、こうした情報を鵜呑みにしてしまうケースが後を絶ちません。
実際、大麻所持で検挙された若者への調査では、7〜8割が「使用自体は禁止されていない(使用罪がない)」と知っていたという衝撃的なデータがあります。
「法律の抜け穴」を知った上で、「持たずに使うだけなら大丈夫」と安易に手を出してしまうのです。
法律が変わりました。「使用」も罪になります
この危険な現状を変えるため、2023年(令和5年)12月に法律が改正されました。
これまで罰則のなかった大麻の「使用(施用)」自体が禁止され、罪に問われることになったのです。
「知らなかった」では、お子さんの未来を守れません。
「使った時点で犯罪になる」。この正しい知識を、ぜひご家庭での会話のきっかけにしてください。
■ドラッグストアでの「購入制限」には理由があります
最近、ドラッグストアで風邪薬や咳止めを買う時、「他のお店でも買っていませんか?」「お一人様1個までです」と薬剤師さんに確認されたことはありませんか?
「家族の分も備蓄したいのに、不便だな」と感じる方もいらっしゃるでしょう。
しかし、この規制には、子供たちの命を守るための切実な理由があります。
今、10代の若者の間で、市販薬を大量に摂取する「オーバードーズ(OD)」が急増しているのです。
白書のデータによると、精神科で薬物依存の治療を受けている10代の患者さんのうち、覚醒剤などの違法薬物ではなく、「市販薬」を主たる薬物とする割合が増加しています。
身近な薬局で買える薬が、依存の対象になってしまっている現状。
販売規制は、子どもたちが衝動的に大量の薬を手にするのを防ぐための、社会全体の「防波堤」なのです。
■「ダメ!」と叱る前に、知ってほしいこと
なぜ、将来ある若者たちが、違法薬物や市販薬に手を出してしまうのでしょうか。
それは単に「ハイになりたいから」「遊びたいから」という理由だけではありません。
多くの場合、その背景には「孤独」や「生きづらさ」が隠れています。
- 学校や家庭に居場所がない
- 誰にも相談できない悩みがある
- 辛い現実から、一瞬でも逃げたい
薬物は、そうした「心の痛み」を麻痺させるための、悲しい手段になってしまっているのです。
厚生労働白書でも、こうした孤独・孤立の状態を「関係性の貧困」と表現し、対策の重要性を訴えています。
私たち大人ができる一番の予防策。
それは、薬を見つけて「ダメ!」と頭ごなしに叱ることだけではありません。
「何か辛いことはない?」「いつでも味方だよ」
そう声をかけ、家庭の中に「弱音を吐ける場所」を作ってあげることです。
心が誰かとつながっていれば、薬に頼る必要はなくなります。
■おわりに
産婦人科医として、女性とご家族の健康を見守る中で、心の健康(メンタルヘルス)の大切さを日々痛感しています。
もし、お子さんの様子がいつもと違うと感じたり、お部屋に薬の殻がたくさん落ちていたりしたら、決してお一人で抱え込まないでください。
地域の精神保健福祉センターや、かかりつけの医師に相談する勇気を持ってください。
正しい知識と、温かいつながりが、大切な家族を守る「一番の薬」になります。