「私が辞めるしかない」と思う前に|介護と仕事を両立する制度

「私が辞めるしかない」と思う前に|介護と仕事を両立する制度を医師が解説

「ある日突然、母が転んで骨折した」
「退院しても、今までどおりの暮らしは難しいと言われた」
「兄弟は遠方。私が辞めて看るしかない」

そんなふうに、辞める決心を固めかけていませんか。

その決断の前に、ひとつだけ見ていただきたい数字があります。介護や看護のために、1年間で仕事を辞めた方は10万6千人。そのうち8万3千人、およそ8割の方が、辞めたあと働いていません。

介護での離職は、いったん辞めると戻るのが、とても難しいのです。

この記事では、介護と仕事を両立するための制度を、国の公式レポート「令和7年版 厚生労働白書」と、育児・介護休業法の資料に基づいて解説します。2025年4月に法律が変わり、会社の側から説明が来る仕組みができたことも、あわせてお伝えします。

この記事でわかること

  • 介護離職の最新データと、辞めたあとに起きること
  • 介護休業93日の本当の使い方(多くの方が誤解しています)
  • 3つの制度の使い分け(休業・休暇・短時間勤務)
  • 2025年4月に変わったこと(会社の義務が増えました)
  • 介護の申出を理由にした不利益な扱いは違法であること
  • 介護休業中の収入(賃金の67%)
  • パート・有期契約でも使えること

https://youtu.be/PoFgyNTTSmc

介護離職10万6千人——辞めたあと、約8割が働いていません

データ 数値
介護・看護のため過去1年間に前職を離職した人 10.6万人(2022年)
10.6万人のうち、離職後に働いていない人(無業者) 8.3万人(約8割)
10.6万人のうち、女性 8.0万人(約4分の3)
5年前(2017年)との比較 9.9万人から7千人の増加

介護離職は、2007年の14.5万人から2017年の9.9万人まで減り続けていました。それが2022年に増加へ転じています。

💡 背景には人口構造の変化があります。2025年は、団塊の世代が全員75歳以上になった年です。2040年に向けて高齢者人口はピークを迎え、15〜64歳の人口は1,000万人以上減少すると見込まれています。介護は「特別な不運」ではなく、誰にでも順番に来る出来事になりました。

働きながら介護している人は、365万人います

辞めた方の数字を見たあとに、続けている方の数字も見てください。

データ 数値
介護をしている人 629万人
うち、働いている人(有業者) 365万人
介護をしている人に占める有業者の割合 58.0%(半数を超えています)
10年間の増加 有業者が73万人以上の増加

介護をしながら働く方は、少数派ではありません。その方たちを支えているのが、これからご紹介する制度です。

3つの制度は、役割が違います

いちばん大きな誤解からお伝えします。

介護休業は、ご自分で介護をするための休みではありません

国の指針は、3つの制度の役割を明確に書き分けています。

制度 何のための制度か どれだけ使えるか
介護休業 介護の体制を構築するため 対象家族1人につき通算93日・3回まで分割
介護休暇 日常的なニーズにスポット的に対応するため 年5日(対象家族2人以上は年10日)・時間単位で取得可
所定労働時間の短縮等の措置 日常的なニーズに定期的に対応するため 利用開始から連続する3年以上の期間で2回以上(※会社が設けるべき下限。上限ではありません)
所定外労働の制限(残業免除) 帰る時間を確保するため 1回につき1か月以上1年以内・何度でも請求可

介護休業93日の、本当の使い方

93日で親を看るのではありません。93日で「仕組み」を作るのです。

  • ケアマネジャーを決める
  • 介護保険を申請する
  • 施設やサービスを見て回る
  • 家族で分担を決める

3回まで分割できるため、山場ごとに使えます。

flowchart TD
    A["🏥 家族が入院・介護が必要に"]
    A --> B["📞 会社に「介護に直面しました」と伝える<br/>※これが起点です"]
    B --> C["🏢 会社から個別に説明が来ます<br/>①制度の内容 ②申出先 ③給付金<br/>2025年4月から義務"]
    C --> D["🗓 1回目の介護休業<br/>入院・退院の山場に"]
    D --> E["🤝 ケアマネジャーを決める<br/>介護保険を申請する<br/>施設・サービスを見て回る"]
    E --> F["🏠 体制ができたら復職<br/>介護休暇・時短・残業免除で続ける"]
    F --> G["🔁 状態が変わったら2回目・3回目<br/>通算93日を3回まで分割"]

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    classDef goal fill:#dcfce7,stroke:#16a34a,color:#14532d

    class A start
    class B,E act
    class C duty
    class D,F,G goal

介護休暇は、2時間だけでも使えます

介護休暇は時間単位で取得できます。

  • 介護保険の手続きに、午前中だけ
  • 通院の付き添いに、2時間だけ
  • ケアマネジャーとの面談に、1時間だけ

1日まるごと休む必要はありません。

対象になる家族は、思ったより広いです

対象家族
配偶者(事実婚を含みます)
父母・子
祖父母・兄弟姉妹・孫
配偶者の父母(義理のご両親)

義理のご両親も対象です。見落とされやすいので、ご注意ください。

「要介護状態」の条件は、難しくありません

対象になるのは「2週間以上にわたり常時介護を必要とする状態」です。判断の目安として、次のどちらかに当てはまれば該当します。

  • 厚生労働省の判断基準に該当する場合
  • 介護保険の要介護状態区分で要介護2以上である場合

⚠️ 要介護1以下でも対象になり得ます。「要介護2未満だから使えない」わけではありません。判断基準は2025年4月に見直され、労働者の個々の事情にあわせて柔軟に運用することが、事業主に望ましいとされています。

パート・有期契約でも対象です

確かめる前に「自分は対象外」と決めつけて、権利を手放さないでください。

有期契約で働く方は、これに加えて次の要件を満たす必要があります。

休業開始予定日から93日を経過する日から6か月を経過する日までに、労働契約が満了し、更新されないことが明らかでないこと

「更新されることが確実」である必要はありません。「更新されないことが明らか」でなければよいのです。

⚠️ 労使協定がある場合の例外にご注意ください。 介護休業と短時間勤務等の措置は、勤務先が労使協定を結んでいる場合、入社1年未満の方、週の所定労働日数が2日以下の方などが対象外とされていることがあります(日々雇用の方は対象外です)。2025年4月に入社直後でも取れるようになったのは介護休暇であり、介護休業ではありません。入社まもない方・勤務日数の少ない方は、就業規則を確認するか、社内の窓口にお尋ねください。

2025年4月、法律が変わりました

国は、介護離職の要因はさまざまだとしたうえで、こう指摘しています。

社内で両立支援制度が整っているにもかかわらず、制度の内容や利用手続等を知らなかったために利用が進んでいないことも一因となっている可能性が考えられます

制度がないのではなく、知られていない。この状況を変えるために、法律が改正されました。

変わったこと 内容 区分
個別の周知・意向確認 介護に直面したと申し出た人に、会社が①制度の内容 ②申出先 ③介護休業給付 を個別に説明し、利用の意向を確認する 義務
40歳等での情報提供 40歳に達する年度、または40歳の誕生日から1年間のいずれかに、会社から情報提供する 義務
雇用環境整備 研修・相談窓口の設置・事例の収集と提供・利用促進の方針の周知 のいずれかを実施する 義務
介護休暇の要件緩和 「継続雇用期間6か月未満」の除外規定を廃止。入社直後でも取得可能に 義務
テレワーク等の導入 家族を介護する労働者がテレワーク等を選択できるようにする 努力義務

💡 40歳という年齢には意味があります。 介護保険料を納め始める年齢です。介護に直面する前に知らせておく、という考え方で設計されています。

⚠️ 介護に関する改正は、すべて2025年4月1日に施行されています。 2025年10月1日施行分は育児に関する改正(3歳から就学前の子を対象とする柔軟な働き方選択制度等)であり、介護の制度が10月に変わるわけではありません。

flowchart TD
    S["😰 これまで<br/>自分から人事に言い出すしかなかった"]
    S --> T["「戦力外と思われそう」<br/>「契約更新にひびきそう」<br/>→ 言い出せないまま離職"]
    T --> U["⚖️ 2025年4月<br/>育児・介護休業法 改正"]
    U --> V["🏢 申し出れば、会社に説明義務<br/>制度・申出先・給付金の3点"]
    U --> W["📅 40歳で情報が届く<br/>直面する前に知っておける"]
    U --> X["🛡 介護の申出を理由とする<br/>不利益な取扱いを明確に禁止"]
    V --> Y["🍀 知らないまま辞める、を防ぐ"]
    W --> Y
    X --> Y

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    classDef law fill:#fff7cc,stroke:#d4a017,color:#7a5c00
    classDef duty fill:#e0f2fe,stroke:#0284c7,color:#075985
    classDef goal fill:#dcfce7,stroke:#16a34a,color:#14532d

    class S,T bad
    class U law
    class V,W,X duty
    class Y goal

「伝えたら、不利益な扱いを受けないか」——法律で禁止されています

介護のことを会社に伝えるのをためらう理由として、いちばん多いのがこの不安ではないでしょうか。

介護休業等の申出・取得を理由に、解雇や退職の強要、正社員からパートへの契約変更の強要といった不利益な取扱いを行うことは、法律で禁止されています。

2025年の改正では、対象家族の介護を必要とする状況に至ったことを申し出たことを理由とする不利益な取扱いの禁止が、明確に追加されました。

厚生労働省は、違法となる典型例をこう示しています。

母親が脳梗塞で倒れ介護が必要な状態となったことを社長に伝えたら、介護はいつ終わるかわからないから退職願を出してから休むようにと言われ、会社所定の退職願にその場で署名するよう強要された

これは不利益取扱いの典型例として、資料に明記されています。

上司や同僚からのハラスメントを防ぐ措置も、事業主に義務付けられています。

父親が介護が必要な状態となったこと、介護休業を取得しようと思うと周囲に伝えたら、同僚から「今の忙しい時期に休むなんて自分なら時期を考える。」と言われた。「今休んで早めに介護施設を探したい。」と再度伝えたが、再度同様の発言をされ、苦痛に感じた。

これがハラスメントの典型例です。我慢する必要はありません。

お金のこと——介護休業給付金は賃金の67%

介護休業中は無給ではありません。

項目 内容
介護休業給付金 休業開始時賃金日額の67%
支給される期間 93日を限度に、3回まで
支給するところ 雇用保険(ハローワーク)

⚠️ 雇用保険の被保険者が対象です。週の所定労働時間が20時間未満などで雇用保険に加入していない場合、支給されません。なお、2028年10月からは週10時間以上へ適用が拡大される予定で、対象になる方が広がります。

会社にも支援があります

  • 介護支援プラン:介護離職を防ぐために事業主が策定する計画。国が普及と策定支援を行っています
  • 両立支援等助成金(介護離職防止支援コース):プランに基づいて介護休業の取得・復帰に取り組んだ中小企業事業主、介護のための柔軟な就労形態の制度を導入した中小企業事業主、介護休業や短時間勤務を行う労働者の業務を代替する体制の整備を行った中小企業事業主が対象

「迷惑をかける」の中身は、制度で減らせます。あなたが休む間、穴を埋める方への手当にも国のお金が出る仕組みがあります(中小企業事業主が対象です)。

医師からお伝えしたいこと

介護のために仕事を辞めた10万6千人のうち、8万人が女性でした。約4分の3です。

介護をしながら仕事を続けている割合にも、差があります。

性別 介護をしている人のうち、働いている人の割合
男性 67.0%
女性 52.7%

女性のほうが低いのが現状です。

この40代・50代という年代は、更年期と重なります。ホルモンの変化で心と体が揺れる時期に、介護と仕事が同時にやってくる。それでも、介護する人の健康は、誰も診ていません。

何らかの疾患により通院しながら働いている方は、40.6%。働く方の4割を超えています。介護される側だけでなく、支える側にも通院が必要な方は多いのです。

ご自身の受診と健診を、止めないでください。 それが、いちばん長く介護を続けられる方法です。

無料で使える相談窓口

窓口 内容
地域包括支援センター お住まいの市区町村に設置。介護の入口。要介護認定の申請やケアマネジャーの相談ができます
総合労働相談コーナー 全国の労働局・労働基準監督署などに設置。職場のあらゆる相談に無料でワンストップ対応
都道府県労働局 雇用環境・均等部(室) 育児・介護休業法に関する相談、紛争解決の援助
両立支援のひろば https://ryouritsu.mhlw.go.jp/ 企業の両立支援の取組みを検索できます

よくある質問(FAQ)

Q. パートでも介護休業は取れますか?
A. 対象になります。有期契約の方も、休業開始予定日から93日を経過する日から6か月を経過する日までに労働契約が満了し、更新されないことが明らかでなければ対象です。※勤務先が労使協定を結んでいる場合、入社1年未満の方・週の所定労働日数が2日以下の方などが対象外とされていることがあります。就業規則をご確認ください。確かめる前に「自分は対象外」と決めつけて、権利を手放さないでください。

Q. 93日で介護が終わるとは思えません。足りないのでは?
A. 介護休業は、ご自分で介護をするための休みではありません。国の指針は、介護休業を「介護の体制を構築するため」の制度と位置づけています。93日で親を看るのではなく、93日で仕組みを作るとお考えください。3回まで分割できるため、入院時・退院時・状態が変わった時と、山場ごとに使えます。

Q. 介護休業中の収入はどうなりますか?
A. 雇用保険から介護休業給付金が支給されます。休業開始時賃金日額の67%で、93日を限度に3回まで受けられます。雇用保険の被保険者が対象です。

Q. 義理の親(配偶者の父母)の介護でも使えますか?
A. 使えます。対象家族には、配偶者(事実婚を含む)・父母・子・祖父母・兄弟姉妹・孫に加え、配偶者の父母が含まれます。

Q. 母はまだ要介護1です。介護休業は使えませんか?
A. 使える可能性があります。「常時介護を必要とする状態」は、厚生労働省の判断基準に該当する場合、または介護保険の要介護2以上である場合のいずれかで判断されます。要介護2以上は目安のひとつであり、要介護1以下でも判断基準に該当すれば対象です。事業主には、個々の事情にあわせて柔軟に運用することが望ましいとされています。

Q. 会社に介護のことを伝えたら、不利益な扱いを受けませんか?
A. 介護休業等の申出・取得を理由とする解雇や退職の強要、契約変更の強要は法律で禁止されています。2025年の改正では、介護が必要な状況に至ったことを申し出たことを理由とする不利益な取扱いの禁止が明確に追加されました。上司や同僚からのハラスメントを防ぐ措置も、事業主の義務です。不安なときは総合労働相談コーナー(無料)にご相談ください。

Q. 介護休暇は1日単位でしか取れませんか?
A. 時間単位で取得できます。介護保険の手続きや通院の付き添いに、2時間だけという使い方が可能です。2025年4月からは「継続雇用期間6か月未満」の除外規定が廃止され、入社直後の方でも取得できるようになりました。

まとめ|辞表を書く前に、伝えることから

  • ✅ 介護離職は年間10.6万人。辞めたあと約8割が働いていません。いったん辞めると戻るのが難しいのが現実です
  • ✅ 介護休業の93日は「体制を作るための休み」。介護休暇は時間単位、短時間勤務は3年以上の期間で2回以上。パートでも対象です
  • ✅ 2025年4月から、介護に直面したと申し出れば、会社には説明する義務があります。40歳では直面する前に情報が届きます
  • ✅ 介護休業給付金は賃金の67%。無給ではありません
  • ✅ 介護の申出を理由とする不利益な取扱いは法律で禁止されています

辞表を書くことではなく、会社に「介護に直面しました」と伝えること。 それが最初の一歩です。伝えれば、向こうから説明が来る仕組みになりました。

産む、産まない。働く、休む。看る、看ない。どれを選んでも構いません。ただ、知らなかったせいで選べなかった、ということだけは、なくしてほしいのです。

体調のことは私たちに、職場のことは相談窓口に。介護を支える方の健康も、どうか後回しにしないでください。

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