厳しい指導とパワハラの違い|法律が決めた”3つの条件”で見分けられます

【2025年法改正】マタハラ・パワハラ・カスハラは、もう我慢しなくていい|相談窓口と対処法を産婦人科医が解説

「妊娠を報告したら、『よりによって、この時期に?』と言われた」
「つわりで休んだら、嫌味を言われた」

こんな経験をしたとき、多くの方が「迷惑をかけているのは事実だし、私が我慢すればいい」と考えてしまいます。

けれど、その必要はありません。それは法律で禁止された行為であり、会社には防ぐ義務があります。

この記事では、広島県の産婦人科クリニック「藤東クリニック」が、職場のハラスメントについて、法律の線引きと具体的な対処法をわかりやすく解説します。

https://youtu.be/f-U4UV30w34

この記事でわかること

  • 職場のハラスメント4種類と、会社に課された義務
  • 「厳しい指導」と「パワハラ」を見分ける3つの条件
  • データで見る「我慢しているのは、あなただけではない」
  • 無料で使える相談窓口と、泣き寝入りしないための手順
  • 2025年の法改正で、カスハラ対策がどう変わるか

職場のハラスメントは4種類あります

職場のハラスメントは、法律上、4つに整理されています。この4つはすべて、防ぐための措置を取ることが、すべての会社に義務づけられています

種類 どんな行為か 呼び方
パワーハラスメント 優越的な関係を背景にした、行き過ぎた言動 パワハラ
セクシュアルハラスメント 性的な言動による不利益・就業環境の悪化 セクハラ
妊娠・出産等に関するハラスメント 妊娠・出産を理由とした不利益取扱い・嫌がらせ マタハラ
育児休業・介護休業等に関するハラスメント 育休・介護休業の取得等を理由とした嫌がらせ 育ハラ・ケアハラ

💡 「会社に相談窓口がない」という場合でも、あきらめる必要はありません。相談窓口の設置は、会社の義務とされています。

これは全部アウトです|マタハラのNG発言

外来でも耳にすることの多い言葉を挙げます。次のような発言は、すべてマタハラに該当します。

  • ❌「妊娠したなら、辞めるのが常識でしょう」
  • ❌「つわりで何度も休まれると迷惑」
  • ❌「育休を取るなら、責任ある仕事は任せられない」
  • ❌「このタイミングで妊娠されると困る」

「言われた側が気にしすぎ」ではありません。言った側に問題がある行為です。

「厳しい指導」と「パワハラ」の境界線

いちばん判断に迷うのが、ここではないでしょうか。上司に「これは指導だ」と言われると、それ以上何も言えなくなってしまいます。

法律には、はっきりとした基準があります。パワーハラスメントは、次の3つの条件をすべて満たすものと定められています。

flowchart TD
    S["🏢 職場で受けた、つらい言動"]
    S --> A["① 優越的な関係を背景にした言動<br/>上司と部下など、逆らいにくい関係"]
    A --> B["② 業務上必要かつ相当な範囲を<br/>超えている"]
    B --> C["③ 就業環境を害する<br/>= 働きづらくなる"]
    C -->|3つすべてに当てはまる| D["パワーハラスメントです<br/>会社に防止措置の義務があります"]
    C -->|どれかが外れる| E["業務上必要で相当な範囲の<br/>指導は該当しません"]

    classDef start fill:#fde2e4,stroke:#e0356e,color:#7a1030
    classDef cond fill:#e0f2fe,stroke:#0284c7,color:#075985
    classDef ng fill:#fee2e2,stroke:#dc2626,color:#7f1d1d
    classDef ok fill:#dcfce7,stroke:#16a34a,color:#14532d

    class S start
    class A,B,C cond
    class D ng
    class E ok

押さえておきたい2つのポイント

  • 3つそろって初めてパワハラです。業務に必要で、行き過ぎていない指導は該当しません
  • 逆に、3つそろっていれば、相手が「指導だ」と言い張っても、それは指導ではありません

💡 判断に迷うときは、厚生労働省の「あかるい職場応援団」というサイトで、実際の裁判事例を無料で読むことができます。毎年12月は「職場のハラスメント撲滅月間」に定められています。

データで見る「我慢しているのは、あなただけではない」

「こんなことで相談する人なんて、いるのだろうか」と感じる方は少なくありません。国のデータを見ると、決して珍しいことではないとわかります。

職場のトラブル相談は、年間121万件

項目 件数(2023年度)
総合労働相談 1,210,412件(約121万件)
民事上の個別労働紛争に関する相談 266,162件
労働局長による助言・指導の申出 8,372件
紛争調整委員会によるあっせん申請 3,687件

心の不調で労災を申請した人は、5年で約1.7倍

我慢を続けた結果、心に不調をきたす方もいます。仕事が原因で精神的な病気になり、労災を申請した件数の推移です。

年度 精神障害の労災請求件数
2019年度 2,060件
2020年度 2,051件
2021年度 2,346件
2022年度 2,683件
2023年度 3,575件
  • 5年間で約1.7倍に増加しています
  • 2023年度の請求3,575件のうち、1,850件(半数以上)が女性です
  • 実際に労災と認められた(支給決定)のは883件です

💡 この増加は、悪いことばかりではありません。我慢せずに声を上げる人が増えた、という側面もあります。

泣き寝入りしないための、相談の進め方

「いきなり裁判なんて無理」と思われるかもしれません。国の制度は段階的に用意されていて、無料で使えます

flowchart TD
    R["📝 STEP 0|記録を残す<br/>日付・場所・言われた言葉・その場にいた人"]
    R --> A["🏢 STEP 1|社内の相談窓口<br/>設置は会社の義務です"]
    A --> B["☎️ STEP 2|総合労働相談コーナー<br/>労働局・労働基準監督署などに設置/無料"]
    B --> C["📋 STEP 3|労働局長による助言・指導<br/>年間 8,372件の申出"]
    C --> D["🤝 STEP 4|紛争調整委員会のあっせん<br/>年間 3,687件の申請"]
    D --> E["✅ いきなり裁判ではありません<br/>無料で、段階を踏んで解決できます"]
    classDef prep fill:#fef3c7,stroke:#d97706,color:#78350f
    classDef inside fill:#e0f2fe,stroke:#0284c7,color:#075985
    classDef gov fill:#ede9fe,stroke:#7c3aed,color:#4c1d95
    classDef goal fill:#dcfce7,stroke:#16a34a,color:#14532d

    class R prep
    class A inside
    class B,C,D gov
    class E goal

相談する前に、記録を残しましょう

証拠の有無で、その後の展開が大きく変わります。難しく考える必要はなく、スマホのメモで十分です。

  • 📅 日付・時刻
  • 📍 場所(会議室、休憩室など)
  • 💬 言われた言葉(できるだけそのまま)
  • 👥 その場にいた人

「相談したら、余計に働きづらくなるのでは?」

この心配は、とてもよく聞きます。安心してください。労働局に助けを求めたことを理由に、会社が不利益な扱いをすることは、法律で禁止されています

2025年、法律が大きく変わります

2025年3月、ハラスメント対策を強化する法律の改正案が国会に提出されました。柱は3つあります。

改正の柱 変わること 位置づけ
カスタマーハラスメント対策 顧客等からの迷惑行為を防ぐ措置が事業主の義務に。国が指針を示し、顧客側の責務も明確化 措置義務
就活セクハラ対策 求職者等に対するセクハラ防止が事業主の義務 措置義務
女性活躍の推進 男女間の賃金差異・女性管理職比率の公表を101人以上の企業に義務付け 義務
女性活躍の推進 女性の健康や特性に配慮して行われるべき旨を、法律の基本原則に明記 基本原則
治療と仕事の両立支援 職場での両立を促すため必要な措置を講じる 努力義務

⚠️ これらは法律案の段階で、成立後に順次施行されます。今すぐすべてが動くわけではありません。

「お客様は神様」の時代が終わります

接客業、医療・介護、コールセンターなど、女性が多く働く現場ほど影響の大きい改正です。

カスハラとされるのは、顧客や取引先などからの言動のうち、社会通念上許される範囲を超え、働く人の就業環境を害するものです。「お客様だから我慢するしかない」という状況を、会社が放置できなくなります。

通院しながら働く人は、40.6%

「治療と仕事の両立支援」が努力義務になる背景には、こんなデータがあります。

  • 何らかの疾患で通院しながら働く人の割合:40.6%(2022年)
  • 人数にすると2,326万人
  • 1998年は25.5%でしたから、大きく増えています

働く人の4割が通院しながら働いている計算になります。特別なことではありません

💡 心の健康に関わる改正も進んでいます。従業員50人未満の職場では努力義務だったストレスチェックを、規模にかかわらず義務化する法案が提出されています。小さな職場で働く方にこそ届く改正です。

産婦人科医からお伝えしたいこと

つわりも、切迫早産も、気合いや根性でどうにかなるものではありません。医学的に、安静や勤務の軽減が必要な状態は実際にあります。それを「甘え」と言われる筋合いは、まったくありません。

母健連絡カードという仕組みがあります

母性健康管理指導事項連絡カード(母健連絡カード)をご存じでしょうか。

  • 医師が、勤務時間の短縮や休業などの必要な措置を記入する書類です
  • 事業主は、カードの内容に応じた措置を講じる必要があります
  • 「口で説明してもわかってもらえない」ときに、医学的な裏づけとして機能します

藤東クリニックでは、必要な方にこのカードを発行しています。つらさを一人で抱え込まず、診察の際にご相談ください。

無料で使える相談窓口

窓口 内容
総合労働相談コーナー 全国の労働局・労働基準監督署などに設置。職場のあらゆる相談にワンストップで対応。無料
こころの耳 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト。電話・メール・SNSで相談できます
あかるい職場応援団 ハラスメントの裁判事例・啓発資料を掲載
地域産業保健センター 全国350か所。従業員50人未満の職場で働く方の健康相談に対応

よくある質問(FAQ)

Q. 妊娠を報告したら嫌味を言われました。これはマタハラですか?
A. 妊娠・出産を理由とした不利益な取扱いや嫌がらせは、マタニティハラスメントに該当し、法律で禁止されています。会社にはこれを防ぐ措置を取る義務があります。

Q. 厳しい指導とパワハラは、どう違うのですか?
A. パワハラは「①優越的な関係を背景にした言動」「②業務上必要かつ相当な範囲を超えている」「③就業環境を害する」の3つをすべて満たすものです。業務に必要で行き過ぎていない指導は該当しません。

Q. 相談したことが会社に知られて、不利益を受けませんか?
A. 労働局に助けを求めたことを理由に、会社が不利益な取扱いをすることは法律で禁止されています。安心してご相談ください。

Q. 証拠がないと相談できませんか?
A. 証拠がなくても相談はできます。ただし、日付・場所・言われた言葉・その場にいた人をメモに残しておくと、その後の対応がスムーズになります。

Q. お客様からの暴言も、会社は対応してくれますか?
A. 2025年3月に提出された改正法案では、カスタマーハラスメントを防ぐ措置が事業主の義務とされています。成立後、順次施行される予定です。

Q. 相談は有料ですか?
A. 総合労働相談コーナー、助言・指導、あっせんは、いずれも無料で利用できます。

まとめ|我慢するのが大人、ではありません

押さえておきたいポイントは3つです。

  • ✅ パワハラは3つの条件がすべてそろったもの。マタハラを含む4種類すべてに、会社の防止義務があります
  • ✅ 職場のトラブル相談は年間121万件。社内窓口 → 総合労働相談コーナー → 助言・指導 → あっせんと、無料で段階を踏めます。いきなり裁判ではありません
  • 2025年の法改正でカスハラ対策が会社の義務へ。女性活躍推進法に「女性の健康への配慮」が明記されます

我慢するのが大人なのではありません。声を上げていい仕組みが、これだけ用意されています。

体のことは私たちクリニックへ、職場のことは相談窓口へ。どちらも、一人で抱え込まずにご相談ください。

最新情報をチェックしよう!