ひきこもりは若者だけの問題じゃなかった!30代・40代女性にも忍び寄る「社会的孤立」のリアル

「ひきこもり」と「生きがいの低下」- それ、こころのSOSサインかもしれません

藤東クリニックインサイトがお届けする、女性のメンタルヘルス。今回は、一見産婦人科とは関わりが薄いように思える「ひきこもり」と「生きがいの低下」をテーマに、最新の公的データから心の不調のサインを読み解きます。ご自身、そして大切なご家族のために、ぜひ知っておいてほしい情報です。

私たちの生活の中で、心や身体の不調は様々な形で現れます。前回取り上げた『働く女性の心の不調』では、仕事が原因で精神障害の労災認定を受けた方が2022年度に過去最多の710件にのぼったという衝撃的なデータをご紹介しました。 このように、職場環境が心の健康に大きな影響を与える一方で、私たちの生活の他の側面にも不調のサインは隠されています。

「ひきこもり」は若者だけの問題ではない

「ひきこもり」と聞くと、10代や20代の若い男性の問題というイメージを持つ方が多いかもしれません。しかし、その認識は少し見直す必要があります。

『令和6年版厚生労働白書』などの公的データを基にすると、新たな実態が見えてきます。 例えば、15歳から34歳の若者が働きたいと思いながら求職活動をしていない理由として、全ての年代で最も多いのが「病気・けがのため」です。特に30代前半では40%以上がこの理由を挙げており、この中にはうつ病など、こころの不調が原因で社会へ踏み出すエネルギーが湧かない人々が相当数含まれると推測されています。

さらに、2022年度のある調査では、15歳から64歳までの幅広い世代で約2%(約50人に1人)が「ひきこもり」状態にあると報告されています。若年層だけでなく、35歳から44歳の無業者も2022年には36万人存在するなど、ひきこもりは壮年期・中年期にも広がる社会的な課題となっているのです。

女性のライフステージと「孤立」のリスク

産婦人科医の視点から見ると、女性の生涯には社会的に孤立しやすい時期がいくつか存在します。

  • 産後うつ: 赤ちゃんのお世話に追われ、外出の機会や大人と会話する時間が極端に減ってしまうことがあります。
  • 更年期: ホルモンバランスの乱れにより気力が低下し、これまで楽しんでいた趣味や友人との交流が億劫に感じられることがあります。

こうした時期に適切なサポートが得られないと、社会とのつながりが薄れ、6か月以上にわたって家庭に留まり続ける「ひきこもり」に近い状態に陥るケースは少なくありません。

約5人に1人の高齢者が感じていない「生きがい」

もう一つのテーマは「生きがいの低下」です。これは特に、私たちの親世代にとって身近な問題かもしれません。

ある調査によると、65歳以上の方の20.5%、つまり約5人に1人が「生きがいをあまり感じていない」または「まったく感じていない」と回答しています。 女性に目を向けると、全体では19.6%ですが、75歳以上になると22.7%と、4人に1人以上が生きがいを実感できていないという結果が出ています。

では、どうすれば生きがいを感じられるようになるのでしょうか。その鍵は「人とのつながり」にあります。

  • 近所付き合い: 「お茶や食事を一緒にする」ような近所付き合いのある人は、ない人に比べて生きがいを「十分感じている」割合が約1.4倍高くなります。
  • 友人関係: 親しい友人を「たくさん持っている」と感じる人は、55.6%が生きがいを「十分感じている」と回答しています。一方で、友人を「持っていない」と感じる人では、この割合はわずか8.3%にまで低下します。

定年退職や子どもの独立など、人生の転機によって社会との接点が急に減ると、孤立感を深めやすくなります。これが、こころの不調の入り口になることがあるのです。

小さな変化に気づくことが、こころを守る第一歩

「最近、お母さんが元気ないな」「なんだかやる気が出ないな」と感じたら、それは心のSOSサインかもしれません。「ひきこもり」や「生きがいの低下」は、こころの不調が表面化した一つの形です。

産後や更年期など、心身が不安定になりやすい時期は、特に「孤立しないこと」が大切です。地域の集まりに参加したり、かかりつけ医に相談するだけでも、心はずいぶんと軽くなるはずです。

まずは、ご自身やご家族の小さな変化に気づいてあげること。それが、こころの健康を守るための重要な第一歩となります。

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