消えない辛い記憶。それ、PTSDかもしれません。- あなたのせいじゃない、回復への道すじ
「過去のつらい出来事が、何度も突然よみがえって苦しい…」
「『自分が悪かったんだ』と、ずっと自分を責めてしまう…」
もし、あなたがそのような消えない記憶に悩んでいるのなら、それはあなたのせいではありません。そして、決して一人で抱え込む必要はありません。その苦しみは、「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」という、治療によって回復が可能な”脳の病気”が原因かもしれません。
当院のYouTubeチャンネル『藤東クリニック インサイト』では、動画シリーズ「産婦人科医と学ぶ、女性のための『こころの健康』大全」を配信しています。
今回はその第5回目として、最新の公的データ(※)に基づき、「PTSD」と、より深刻な「複雑性PTSD」について詳しく解説しました。この記事では、動画の内容をダイジェストでご紹介します。つらい記憶に苦しむ多くの方にとって、希望の光となる情報をお届けします。
(※ 主な参考資料:『令和6年版厚生労働白書』など)
PTSDとは? – "心の傷"の正体
PTSDは「心的外傷後ストレス障害」の略称です。生死に関わるような事故や災害、暴力的な犯罪被害など、心に大きな衝撃を受ける出来事(トラウマ)を経験した後に、その記憶が原因で心身に不調をきたし、日常生活に支障が出てしまう状態を指します。
PTSDの主な症状
- 再体験(フラッシュバック): トラウマとなった出来事を、今まさに体験しているかのように生々しく思い出してしまう。
- 悪夢: 体験に関する悪夢を繰り返し見る。
- 回避: トラウマを思い出すような場所や状況を無意識に避ける。
- 過覚醒: 常に神経が張り詰め、不安や緊張が続く。不眠やイライラなども見られる。
- 感情や感覚の麻痺: 感情が湧きにくくなったり、現実感がないように感じたりする。
より深刻な「複雑性PTSD」
一度の出来事ではなく、子どもの頃の虐待やDVのように、長期間、繰り返し心の傷を負い続けた場合、「複雑性PTSD」という、より深刻な状態に陥ることがあります。
ドクターより
「複雑性PTSDは、PTSDの症状に加えて、感情のコントロールが極端に難しくなったり、『自分には価値がない』と強く思い込んだり、他人との安定した関係を築けなくなったりするなど、自己肯定感や対人関係にも深刻な困難を伴います。ご本人が『自分の性格の問題だ』と思い込んでいることも少なくなく、適切な理解と支援に繋げることが非常に重要になります」
希望の光となる最新治療法「STAIR Narrative Therapy」
つらい症状について聞くと、「本当に治るのだろうか」と不安に思われるかもしれません。しかし、回復への道は確かに存在します。近年、特に複雑性PTSDに対して有効性が確認された、新しい心理療法が登場しました。
それが「STAIR Narrative Therapy(ステア・ナラティブ・セラピー)」です。
これは、二段階で進める治療法です。
- 第一段階(STAIR): 不安定な感情を自分でコントロールするスキルを学び、心を安定させる土台を作ります。
- 第二段階(Narrative Therapy): 安全な状態が確保できてから、専門家と共にトラウマ体験を言葉にし、バラバラになった記憶を整理・再構成していきます。
ある研究では、この治療を最後まで終えた複雑性PTSDの患者さん7名のうち、治療直後には6名が、治療終了3ヶ月後には7名全員が診断基準を満たさなくなったという、非常に勇気づけられる結果が報告されています。
まとめ:一人で抱え込まず、まずはご相談ください
今回の重要なポイントを3つにまとめます。
- PTSDは、つらい体験の後に誰にでも起こりうる「脳の病気」です。
- 児童期の虐待やDVなど、長期的な被害は「複雑性PTSD」という、より深刻な状態になる可能性があります。
- 最も大切なのは、これらは回復可能な病気であり、実際に効果の高い新しい治療法も始まっているということです。
ドクターより
「もし、あなたや周りの人が消えない記憶に苦しんでいたら、決して一人で抱え込まないでください。『私が悪かったんだ』なんて、絶対に思わないでほしいのです。研究でも、被害後の社会的サポートの不足や、生活上のストレスがPTSDを発症させやすくすることが分かっています。だからこそ、孤立せずに誰かに頼ることが、回復への第一歩になります」
私たち藤東クリニックは、女性の生涯にわたる心と体の健康に寄り添います。体の不調のご相談の中で、もしつらい過去についてお話しくださったなら、私たちはそれを真摯に受け止め、どうすれば良いかを一緒に考え、必要であれば信頼できる専門の医療機関へお繋ぎすることもできます。
どんなことでも、まずはご相談ください。
ドクターより
「特に産婦人科医として見過ごせないのは、DV(ドメスティック・バイオレンス)や性的な被害がきっかけになるケースです。トラウマ体験のショックがあまりにも強すぎると、脳がその記憶をうまく処理できなくなってしまいます。普通の『昔のつらい思い出』として整理することができず、記憶が断片的なまま、意図せず突然よみがえってしまう。これがPTSDの苦しさの始まりなのです」