妊娠中に新型コロナウイルスに感染された妊婦さんには、日々不安を抱えていらっしゃると思います。妊婦さんに限らず、現在、全国的に新型コロナウイルス感染用の医療体制が逼迫し、限られたベッド数の中で、感染症の症状に応じて自宅療養や宿泊療養(ホテルなど)となっています。妊娠中に新型コロナウイルスに感染されても、8割以上の方は無症状、またはかぜ程度の軽い咳や発熱の症状で収まり、酸素投与以上の治療が必要な方は全体の2割以下ですので、現在無症状の方はご安心していただきたいと思います。
ただし、妊娠中は様々な妊娠に関連した異常は起こりえますし、症状が強くなる方もおられます。そのため、新型コロナウイルスに伴う症状に加えて、妊娠に関連した異常な症状がないかについて十分ご注意いただくことが大切です。私たち産婦人科医は、自宅やホテルでの療養となられた妊婦さんと密に連絡を取り合い、健康チェックを行うように心がけています。
もし妊娠に関連した異常や体調の変化が発生し、入院療養が必要と判断された場合でも、産科医療機関の連携の中で、かかりつけの産婦人科の先生を通して、産科的な対応が可能な入院施設を探すことができます。
迅速に対応することを努めていますが、状況によっては時間を要することもありますので、以下のような変化が起こった場合には、妊婦さんご自身からかかりつけの産婦人科の先生に電話等で連絡いただくようお願いします。
なお、地域によって周産期の医療体制が異なりますので、新型コロナウイルス感染による療養状態となった場合には、かかりつけの産婦人科の先生にその旨を速やかにお伝えいただき、変化が起こった場合の対応をお聞きしてください。
(1)以下のような妊娠に関連した異常については、かかりつけの産婦人科の先生に連絡してください。
- 性器出血、破水感、頻回の子宮収縮、胎動減少、強い腹痛など
- その他、助産師さん等からの妊婦健診時に言われた症状
(2)新型コロナウイルス感染症の症状について
まず、以下の健康観察を行ってください。
- 呼吸状態、心拍数や呼吸数の計測
- 体温
- パルスオキシメーター(サチュレーションモニター)をお持ちの場合は、酸素飽和度(血液内の酸素の量:SpO2)の計測
(A)以下の場合には、かかりつけの産婦人科の先生もしくは保健所に連絡してください。
- 1時間に2回以上の息苦しさを感じる時
- トイレに行くときなどに息苦しさを感じるようになった時
- 心拍数が1分間に110回以上、もしくは呼吸数が1分間に20回以上
- 安静にしていても酸素飽和度が93-94%から1時間以内に回復しない時
(妊娠中は赤ちゃんのために95%以上の酸素飽和度が必要です)
(B)以下の場合は、すぐに救急車を要請してください。
- 息苦しくなり、短い文章の発声も出来なくなった時
- 酸素飽和度(SpO2)が92%以下になった時
【出典】
(1)英国、NationalHealthService「COVID-19感染症を患った患者の方々が自宅で経過
観察する場合」https://www.nhs.uk/conditions/coronavirus-covid-19/self-isolationand-treatment/how-to-treat-symptoms-at-home/
(2)英国産科婦人科学会(RCOG)、「妊娠中のCOVID-19感染」、
https://www.rcog.org.uk/globalassets/documents/guidelines/2021-02-19-coronavirus-covid-19-infection-in-pregnancy-v13.pdf
理事長木村正
日本産婦人科医会
会長木下勝之