公益社団法人 日本産科婦人科学会
Q1: 妊娠中に風疹に罹患すると胎児(あかちゃん)に問題が起こりますか?
A1: 胎児(あかちゃん)に問題が起こることがあります。感染時期が妊娠早期であるほど、その危険が高くなります(妊娠4週〜5週頃では50%以上の危険があります)。妊娠20週以降に感染した場合、問題はほとんどないとされています。
Q2: 胎児(あかちゃん)に起こる問題にはどのようなものがありますか?
A2: 難聴(耳がよくきこえない)、白内障(目のレンズが白く濁り、よく目がみえない)、心臓構造異常(心臓の形の異常)などが起こりやすいとされています。これら障害が発生した場合、先天性風疹症候群(CRS, congenital rubella syndrome)と診断されます。
Q3: 風疹に罹患すると、どんな症状がでますか?
A3: 発熱、全身に発疹(ピンク〜赤い小さなもの)、あご周辺の痛み(違和感、これはリンパ節腫脹によるもの)が主症状とされています。しかし、症状が出ない場合もあります(特に、再感染の場合や抗体を持っていたが低かった場合など)。症状が出ない風疹感染では胎児(あかちゃん)への影響は極めて小さいとされています。
Q4: 妊娠する可能性がある女性が「妊娠中風疹感染」を予防するためには?
A4:まず風疹に対する抗体の有無を確認します(簡単な血液検査でわかります)。十分な抗体があれば風疹には感染しません。抗体無し、あるいは抗体価が低い場合には感染する危険があります。風疹ワクチン接種を受けることにより抗体を得ることができます。したがって、特に避妊をしていない女性はこの抗体検査を受け、もし抗体がない、あるいは抗体価が低いと判断された場合は妊娠していないことを確認後のワクチン接種をお勧めします。
抗体価が8倍以上(HI検査で)は抗体有りと判断されます。32倍以上では十分な抗体があると判断されます。抗体無し(HIで8倍未満)、あるいは抗体が十分でない(HIで8倍、16倍、あるいはEIA法で8.0 IU/mL 未満)場合には、ワクチン接種が勧められます。ワクチン後2か月間は避妊します(ただし、妊娠直前のワクチン接種や、妊娠に気づかずワクチン接種を受けた場合であっても、あかちゃんに障害が生じた例はないとされています)。風疹に感染したことがある女性、風疹ワクチン接種を受けたことがある女性は抗体を持っている可能性が高いですが、心配であれば、血液検査をお勧めします。
Q5: 妊娠中女性が「妊娠中風疹感染」を予防するためには?
A5: 妊娠初期に受けた風疹抗体検査(通常妊娠12週頃までに実施されます)結果を確認します。8倍未満(HIで<8×)の場合には特に感染しないよう注意が必要です。具体的には「妊娠20週になるまでは人ごみを避ける」ことが重要です。また、手洗い等の感染予防のための一般的注意も重要でしょう。もし、パートナーも風疹抗体を持っていない場合、パートナーが職場等で感染し、家庭内にウイルスを持ち帰ることが懸念されますので、パートナーには風疹抗体検査を受けてもらいましょう。あるいは抗体検査を受けないでのワクチン接種も勧められます(時間の節約になります)。海外出張時に感染し、国内に風疹ウイルスを持ち帰る例も報告されています。渡航前のワクチン接種も勧められます(風疹ワクチンは副作用が少ないとされています。しかし現在、ワクチン製造が需要に追いついていないという現実があり、ワクチンの払底が懸念されています。また抗体検査のためのキット製造にも原材料払底のため、その供給に関して懸念があります)。
Q6: なぜ、男性にもワクチン接種が勧められるのでしょうか?
A6: 日本人20代以降男性の場合、ワクチン接種を受けた割合が低く、これら男性の間で風疹ウイルスが増え、これら男性間で流行が起こるため、最終的に妊娠女性の感染危険が高まると考えられています。そのため、女性だけでなく男性への積極的ワクチン接種は風疹流行を減らし、妊娠女性の風疹感染危険を減らします。
Q7: 妊娠女性に風疹感染を疑う症状が出た場合には?
(風疹感染を疑う症状についてはA3を参照して下さい)
A7: 直ちにかかりつけ医を受診します。この際、予め医院/病院に電話等を入れ、別室で診察を受けるようします(他の妊娠女性との接触が少なくなるよう)。
血液検査(この場合、HI法と風疹IgGと風疹IgMの3者を同時に検査します[注1]参照)により、診断(母体感染については)はより正確となります。しかし、場合により2週間の間隔をおいた2回の血液検査が必要となることもあります。妊娠初期血液検査のHI値から4倍以上の変化(例えば、初期にHIが8×だったが、32×以上となった場合など)があった場合、前回検査から今回検査の間に風疹母体感染(胎児感染についてはこの時点ではわかりません)があったと判断します。もし、今回が風疹に関する初回血液検査であった場合には、2週間後に再度同じ血液検査(HI法と風疹IgGと風疹IgMの3者)を受けます。初回検査でIgG陰性、2回目検査でIgG陽性となった場合、感染が確認されたことになります。また、IgM値の大きな変動も感染診断の助けとなります。これらについては「産婦人科診療ガイドライン—産科編2011、246〜249頁」を参照下さい(パソコンで「産婦人科診療ガイドライン—産科編2011」で検索することができます)。
注1:地域により、HI法と風疹IgGと風疹IgMの3者を同時に検査した場合、一部検査が保険の対象とならない場合があります。この場合、病院から実際に検査にかかる費用を請求される場合がありますので、医療機関にこれらの点についてはご相談下さい。
Q8: 母体感染が強く疑われ、胎児感染診断が必要と判断された場合には?
A8: 母体が感染しても胎児(あかちゃん)に感染しているとはかぎりません。胎児感染の診断のためには羊水検査が必要となります。羊水検査についての相談窓口は、以下の施設となっています。以下のいずれかの施設にご相談下さい。
北海道 北海道大学病院産科
東北 東北公済病院産科・周産期センター,
宮城県立こども病院産科
関東 三井記念病院産婦人科,
帝京大学附属溝口病院産婦人科,
国立成育医療研究センター周産期センター産科,
横浜市立大学附属病院産婦人科,
国立病院機構横浜医療センター産婦人科
東海 名古屋市立大学病院産科婦人科
北陸 石川県立中央病院産婦人科
近畿 国立循環器病研究センター病院周産期・婦人科,
大阪府立母子保健総合医療センター産科
中国 川崎医科大学附属病院産婦人科
四国 国立病院機構香川小児病院産婦人科
九州 宮崎大学医学部附属病院産科婦人科,
九州大学病院産科婦人科