妊娠糖尿病とは
「妊娠糖尿病(gestational diabetes:GDM)」とは、妊娠中にはじめて発見または発症した糖尿病にいたっていない耐糖能(上昇した血糖値を正常に戻す能力)異常です。
妊娠中に発見される耐糖能異常には、以下の2つがあります。
- 妊娠糖尿病
- 妊娠時に診断された明らかな糖尿病
糖尿病合併症とは、もともと糖尿病だった人が妊娠した場合をいいます。
診 断
妊娠初期に行われた採血で、おおよその見当(スクリーニング)をつけます。また,妊娠中期に、初期の検査で異常がなかった場合でも再度スクリーニングを行います。
スクリーニングの方法には、随時血糖検査やブドウ糖負荷試験(GTT,GCT)があります。ブドウ糖負荷試験は、ブドウ糖を飲み、飲む前、飲んだ後の血液中のブドウ糖値を測ります。
妊娠中の血糖値の目標
妊娠中における血糖値のコントロールの目標値は、食前100mg/dL未満、食後2時間 120mg/dL以下です。この目標値を達成するために、食事療法、運動療法(妊娠中は妊娠していないときのようには行えません)を行いますが、それでも血糖がコントロールできない場合にはインスリン注射を使用します。血糖の自己測定により日常生活での血糖値の変動を把握し、場合によっては教育入院をして治療することも、きちんと血糖値をコントロールするうえで重要です。
妊娠中のインスリン治療
インスリンは胎盤に移行しないため、妊娠中の治療に用いることができます。経口血糖降下薬で治療中に妊娠を希望される場合、妊娠前にインスリン療法に変更します。
出産の方法
妊娠糖尿病や糖尿病の妊婦の方も、出産の方法は原則として経腟分娩で行います。帝王切開は産科的な適応(赤ちゃんの心音が悪くなり急いでお産をしなければならない状態、赤ちゃんが逆子である場合、赤ちゃんが大きすぎる場合、お母さんの糖尿病網膜症や糖尿病腎症などが経腟分娩で悪化する可能性がある場合、お母さんが重症妊娠高血圧症候群になった場合など)があるときに行います。
さらに胎児の肩に脂肪が蓄積すると、赤ちゃんの頭が出た後に肩が出にくくなり、その結果、仮死状態で生まれたり、腕の神経麻痺を起こす危険性があり、これを肩甲難産とよびます。この肩甲難産が予測される場合にも帝王切開が選択される場合があります。
赤ちゃんに起こる危険性について
妊娠前から血糖のコントロールが不良のまま妊娠した場合には、赤ちゃんに奇形を伴う確率が高くなったり、子宮内胎児死亡の確率が高くなります。
巨大児が生まれる可能性があります。巨大児の場合、経腟分娩の際に頭血腫や頭蓋内出血、腕の神経麻痺、鎖骨骨折などが起きることがあります。
一方、反対に低出生体重児(出生体重2,500g未満の赤ちゃんをいいます)として生まれてくる場合もあります。
新生児期では、低血糖、黄疸(高ビリルビン血症)、多血症、呼吸障害などが起きやすくなります。
出産後の定期健診について
産後も定期的に検査を受けることが重要であり、同時に食事や運動などに気をつけて日常生活を送る必要があります。
出産後の生活で注意を要する点
授乳100mLでエネルギーが約80kcal消費するために授乳後に低血糖を起こすことがあるので、産後には1日の摂取カロリーを350kcal程度増やす必要があります。
産後は適宜血糖値を測定し、低血糖発作を起こす場合には、インスリン注射の量を減らしたり、授乳前に補食をするように心がけます。
母乳を飲ませることについて
インスリンは母乳に移行しませんから、赤ちゃんが低血糖を起こす心配はありません。