ステルシングって何?予防策と被害に遭った時の対処法とは

藤東クリニックお悩み相談室~ステルシングについて~

質問者
ステルシングという言葉を耳にしました。ステルシングとは何ですか?また、もし被害に遭ってしまった時は、どうしたら良いですか?
藤東先生
今回はステルシングについて解説しましょう!

ステルシングって、何?

ステルシングとは、相手の同意なく性行為の最中にコンドームを損傷させたり、はずしたりする行為のことです。

女性が男性から受けるステルシング被害としては、性行為中にコンドームを密かにはずされ、挿入や射精をされるといった事例があります。男性が女性に受ける例では、女性側にコンドームが破損するよう細工され、避妊の効果を失うようにされてしまうという被害があります。

ステルシングという言葉自体がまだ新しく、日本ではまだあまり浸透していない傾向がありますが、2017年にステルシングの問題がアメリカで論文化されてから、世界中で議論されています。

ステルシングの被害に遭うと、どうなるの?

ステルシングの被害に遭うと、まず、男女間の場合は、望まない妊娠のリスクが高まります。また、男女問わず性感染症に感染する懸念もあります。

そもそも、妊娠や病気のリスクの前に、相手の同意を得ずにコンドームをはずす、もしくは損傷する行為は、相手の健康を脅かし、尊厳を損ないます。被害に対する精神的なダメージも大きく、被害者の生活にネガティブな影響を与えてしまう可能性があるでしょう。

もっと知りたい「ステルシング」について

ステルシングとは

ステルシングをする心理

男女間の場合は、まず妊娠希望にずれがあり、どちらか妊娠を望んでいる側が避妊を無効化するためにステルシングを行うケースがあります。

その他にも、主に男性のステルシング行為には、コンドームの着用感が好きではない、もしくは避妊具なしでの挿入感を望んでいるという動機が多い傾向があります。さらに腟内射精(肛内射精)に興味がある、パートナーがショックを受ける姿を見たい、といった理由もあるようです。

いずれにしても、相手の気持ちを無視した自分勝手な理由です。卑劣な性暴力の一種であり、決して許されるべきではないでしょう。

ステルシングの被害者数に関する実態調査結果

ステルシングが議論されるようになったのは、実はごく最近で2017年以降のことです。アメリカのロースクールに通っていた女性が、ステルシングを犯罪として立証できるか検証した論文を発表したことで、各国でステルシングが問題視されはじめました。では、ステルシングとは世界でどの程度の被害者が把握されている行為なのでしょうか。

2018年に発表された、オーストラリアのモナシュ大学とメルボルン・セクシュアル・ヘルスセンターによるステルシングの実態調査では、女性の3人に1人が、ゲイの男性の5人に1人がステルシング被害を受けたという結果が出ています。

そのうち警察に行ったのは、たった1%というデータもあり、被害に遭っても表には出さない、出せない人が多くいることが伺えます。

【参考文献】オーストラリア・メルボルンの性的健康クリニックで患者から報告された「非同意によるコンドームの取り外し」について

海外でのステルシングに対する動き

近年の、ステルシングについての革命的な出来事としては、2021年にアメリカのカリフォルニア州で、ステルシング行為を違法とする法案が可決されました。現在、カリフォルニア州の法律では、言葉による同意なしにコンドームを外して性器を接触させる、股間や胸など性的な部位を接触させることを規制しています。

また、ドイツでも、2022年5月に男性の合意なしにコンドームに穴を開けた女性が、性的強要罪で有罪(自由刑)判決を受けています。このように、今後も世界中でステルシングが規制される動きが見られています。

日本でのステルシングに対する動き

日本では、まだ残念ながらステルシングを直接規制する法律はありません。メディアでは被害を訴える声や実態について取り上げられることはあっても、実際に法整備までには至っていないのが現状です。

ただ、ステルシングは健康のリスクを脅かし、精神的にもダメージを与える行為。状況によっては、暴行や傷害の罪として問われる可能性があるでしょう。抵抗できない状況での性交と証明できれば、「準強制性交等罪」が成立するケースもあり得ます。

また、被害者が13歳未満であれば、性行為の事実の立証で、強制性交等罪にも該当します。

まずはステルシングという犯罪を認識し、被害に遭わないよう警戒心を持つように心がけましょう。性交渉は信用のできる相手と毎回性的同意を交わして行い、自分で意識を高めることが、被害を避ける一歩となるはずです。

ステルシングによる悪影響

精神的負担

まず、ステルシングは同意なしで行われるため、相手からの裏切り行為ともいえます。受けたときの精神的なダメージは、男女ともに大きいでしょう。特に、性行為まで同意していた相手ですから、信頼度も高かったはずです。だからこそ、コンドームを外された、破損の細工をされていたと分かれば、ショックも大きくなります。

人によっては、そのステルシングの被害のショックでPTSD(心的外傷後ストレス障害)や不安障害、うつ病を発症することもあります。仕事にも影響が出て、会社を辞めるといった事態にもなりかねず、ステルシングは生活環境を変えてしまう可能性があるほど、罪深い行為なのです。

身体的負担

ステルシングは精神的負担だけでなく、男女ともに身体的な負担も受けます。女性の場合は、望まない妊娠や人工妊娠中絶などの可能性が考えられます。そして性感染症に罹患する危険性は、性別に関わらずあります。感染すれば、つらいかゆみや痛みなどの症状が出ることもありますし、治療による時間的・経済的負担も生まれます。

発見が遅れれば、不妊や合併症につながることもあり、HIV(エイズ)に感染すれば、ウイルスの増殖を抑えるため、長く治療をし続けなければなりません。

社会的負担

前述の実態調査の結果でも、「警察に行ったのはたった1%」と被害を隠す傾向がみられる点をご紹介しました。このようにステルシング被害が公けになりにくい理由の一つとして、社会的負担を懸念していることが考えられます。

性暴力被害事態に対して、今でも社会的な偏見は少なからず見られます。もちろん、味方になってくれる人が大半だとは考えられますが、中には被害に遭った人を心無い言葉で責める人も存在します。

こういった偏見があるため、被害に遭っても知人に相談したり、社会に訴えたりすることができない人が多いと考えられます。

ステルシングについてのQ&A

(1)ステルシングを防ぐには?

性行為に及ぶ前に、まずは相手と性的同意を交わすことが大切です。その中で、妊娠を望んでいるかも話し合い、避妊をするかどうかもきちんと確認しましょう。

心配であれば、その相手との性行為自体を考えなおすことも、視野に入れておく必要があるかもしれません。

まずは、身元が確かで、精神的な信頼関係が成立している相手とだけ性行為をするのが、ステルシングを防ぐ第一の方法といえるでしょう。特に身元が確かでない相手との性行為は、ステルシングの被害に遭っても連絡が取れず、大きな身体的な負担が生まれた時に訴えることができません。リスクが大きいので、できるだけ避けましょう。

女性がステルシングを防ぐ方法

女性が常にコンドームが着用されているかに気を配るのはとても難しいことですが、目の届きにくい性交体位を避けることは、ステルシングの確立を少しでも下げることにつながります。

特に女性が男性の姿を確認しにくい、後背位(バック)や背面側位などは、コンドームをはずされても気づくのが難しい体位です。できるだけ、密着度が高い正常位や、女性が主導で動く騎乗位を選んで、目が届くようにしておくと良いでしょう。

もしはずされたときは、すぐに中断し、再度装着してもらうか、それが難しい時は性行為を終了するようにしてください。自身が「嫌だ」と思うのであれば、相手に流されず、身を守りましょう。

男性がステルシングを防ぐ方法

男女間での性行為に臨む男性の場合は、自身が準備した真新しいコンドームを使うといった方法で、ステルシングを防ぎましょう。

自分が持ってきたコンドームでも、個包装のままでベッドに置いておくと、いつの間にか細工をされていても気付きません。ムードは壊れてしまうかもしれませんが、より確実にステルシング被害を避けるためには、使う時に真新しいものを開封するようにしましょう。

(2)ステルシングの被害に遭ってしまったら?

もし、ステルシング被害に遭った時は、女性なら性行為から72時間以内に、速やかに婦人科や産婦人科を受診し緊急避妊薬(モーニングアフターピル)を処方してもらいましょう。早めに服用すれば、望まない妊娠を防げる可能性が高くなります。

被害を相談したい時は、支援団体の相談窓口に連絡をしましょう。「#8891」に電話をすれば、最寄りの性犯罪・性暴力被害者のための支援センターにつながります。医療機関の紹介や法律の相談、自治体によっては緊急避妊薬の費用支援が受けられることもあります。

また、性感染症の不安もあるため、違和感がある時はすぐに病院を受診しましょう。自覚症状がない病気もあるので、痛みやかゆみがなくても、念のため病院に相談することをおすすめします。

まずは、問題を抱え込まないようにすることが大切です。泣き寝入りせず、支援センターを頼ってみましょう。

避妊や性感染症予防に役立つアイテム

(1)低用量ピル

ステルシング被害に遭った時の身体的な負担を低減するには、普段から低用量ピルを服用して妊娠のリスクを下げておく、という方法もあります。過多月経や生理痛を緩和する、というメリットもあるため、不調のある方は婦人科で医師に相談してみてください。

ただ、これだけでは性感染症を防ぐことができず、さらにステルシングによる精神的な負担は避けられないことは、認識しておく必要があるでしょう。

(2)性交時に着用するコンドーム

コンドームをはずそうとする男性の動機の一つに、着用感などコンドームへの不満があります。

現在のコンドームは、さまざまな種類があります。例えば、薄く作られていて着用感を限りなく少なくしたコンドームや、温かいジェルなどが塗布されていて、着用することで満足感が高まるコンドームなど。不満の解消の糸口になる商品が多数販売されています。

避妊や性感染症の予防に役立つコンドーム
避妊や性感染症の予防に役立つコンドームの例。画像はラブミルフィーユ ホットタイム(ラブコスメ)
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お互いが納得して、コンドームを着けることに価値を見出せるようなコンドーム選びをすれば、男性も前向きに捉えられるかもしれません。

(3)性感染症について検査できるキット

ステルシングによって性感染症の感染に不安を感じるようであれば、病院をすぐに受診しましょう。

しかしもし、忙しくて受診できない、勇気が出ないという時は、自宅で自分で検査できるキットもあります。

女性向け検査キット6種
性感染症について自宅で検査できるキットの例。画像は女性向け検査キット6種(ラブコスメ)

オーラルセックスでも性感染症の感染リスクがあるので、定期的に性行為やオーラルセックスの機会があるなら、一定のタイミングでキットを使用してチェックしても良いかもしれません。

まずはステルシングという犯罪があることを知ろう

ステルシングの被害に遭うと、身体的だけでなく、精神的・社会的にも大きなダメージを受けます。しかし、世界的にステルシングに対して議論がされているものの、日本にはまだ直接の法規制がないのが現状です。まずは、ステルシングという犯罪行為があることを知り、ステルシングが可能な状況や被害の確率を下げる知識を得ることが、自分の身を守る最初の方法です。

そして最低限、性行為をする前には、お互いに相手を尊重し、性的同意を得ること。避妊や性感染症の予防のためのコンドームを使用することを確認してから、セックスに臨みましょう。もし万が一、ステルシングの被害に遭ってしまった時は、一人で抱え込まず、支援機関や婦人科を受診し、相談をするようにしてください。

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