藤東クリニックお悩み相談室~妊娠中の性行為について~
現在妊娠5か月です。夫から誘われるのですが、安定期に入ったら性行為をしても問題ないでしょうか。また妊娠中はいつまで性行為をしても大丈夫なのでしょうか。
妊娠中の性行為や腟内射精は問題ない?
妊娠中に性行為を行うこと自体は、医学的な問題がない限り必ずしも避ける必要はありません。ただし、いくつかの重要な注意点があります。
~妊娠中の性行為のリスク~
- 性感染症の感染
- 破水
- 早産
まず、妊娠中は免疫力が低下しやすく、感染症に対する抵抗力も弱まる傾向にあります。そのため、性行為を行う際には必ずコンドームを使用しましょう。性感染症を予防するのはもちろん、妊婦の体調や胎児の健康を守るうえでも非常に重要です。
また、精液に含まれる「プロスタグランジン」という成分には、子宮を収縮させたり子宮頸部をやわらかくしたりする作用があります。これにより早産や子宮口の開きを引き起こすリスクがあるため、腟内射精(いわゆる中出し)は避けましょう。
妊娠中の性行為は、医師と相談のうえで無理のない範囲で行い、パートナーとよく話し合ってお互いに安心できる形で行うことが大切です。
妊娠中の性行為をしてはいけない条件
妊娠中、以下のような場合は、性行為を避けるべきとされています。
- 前置胎盤
- 子宮頸管無力症
- 羊水の漏れ(破水)がある
- 早産や流産の兆候がある
- 多胎妊娠(双子・三つ子など)
- 妊娠高血圧症候群や切迫流産・切迫早産
これらに該当する場合、パートナーとの意思疎通と医師の判断が不可欠です。安易に「安定期だから大丈夫」と考えず、身体の状態に応じた慎重な判断を心がけてください。
妊娠中の性行為はいつから、いつまでできる?
一般的には、胎盤がまだ安定していない妊娠初期は性行為を控え、妊娠中期の「安定期」と呼ばれる時期に再開するのが無難とされています。
とはいえ、妊娠中の身体は日々変化しています。無理をせず、自分の体の声を大切にしながら、パートナーとしっかり話し合い、互いに配慮し合うことが何よりも重要です。
もっと知りたい!妊娠中の性行為について
特に性行為を避けるべき妊娠時の状況とその理由
先ほど性行為を避けるべき条件をリストで紹介しましたが、その細かな理由やリスクの種類について解説します。
前置胎盤と診断されている場合
前置胎盤とは、胎盤が子宮口にかかっている状態を指します。この状態で性行為を行うと、腟への刺激により胎盤が損傷し、大量出血を引き起こすリスクがあります。場合によっては、母体・胎児ともに命に関わる可能性もあります。
子宮頸管無力症と診断されている場合
子宮頸管が通常よりも柔らかく、短縮しやすい状態で、妊娠中期から後期にかけて子宮口が開いてしまうことがあります。性行為による物理的な刺激が早産を引き起こす危険があるため、性交渉は厳禁とされることが多いです。
妊婦検診で子宮頸管の長さを計測しますが、その際に通常の妊娠週数より短いと言われた場合は、これ以上短縮してしまうのを防ぐためにも性行為は避けた方がいいでしょう。
羊水の漏れ(破水)がある場合
前期破水などにより羊水が漏れている状態では、性行為により腟内の雑菌が子宮に入り込み、「子宮内感染(絨毛膜羊膜炎)」などを起こす可能性があります。感染は胎児にも波及し、早産や胎児死亡の原因となり得ます。
早産や流産の兆候がある場合、または過去にその経験がある場合
出血、腹痛、子宮収縮などの兆候があるときは、身体が危険信号を発しているサインです。過去に早産・流産の既往歴がある妊婦も再発のリスクが高いため、性行為は避けた方がよいとされています。
多胎妊娠(双子・三つ子など)の場合
子宮が通常よりも大きくなりやすく、子宮口への圧力が強くかかるため、早産のリスクが高まるとされています。特に妊娠後期には性交渉による刺激が子宮収縮を誘発しやすく、注意が必要です。
妊娠高血圧症候群や切迫流産・切迫早産と診断されている場合
これらの診断を受けている妊婦は、基本的に安静が必要な状態です。血圧上昇や子宮収縮のリスクを考慮し、性行為は避けることが望ましいとされています。

妊娠中の性感染症のリスク
妊娠中に性感染症に感染すると、母体のみならず胎児に深刻な影響や障害を与える可能性が高まります。性感染症にかかるリスクを避けるために、コンドームの使用を徹底し、パートナーと共に定期的な検査を受けることが非常に重要です。感染症の予防と早期発見が母体と胎児を守るための最善の方法です。
以下に代表的な感染症とそのリスクを解説します。
梅毒
梅毒の感染者数は増加傾向にあり、先天性梅毒も社会問題となっています。
妊婦は妊娠8~12週ころ妊娠初期検査で各種性感染症(梅毒、HIV、B型肝炎、C型肝炎、風疹、HTLV-1、クラミジア、淋菌など)の検査を行います。この時に梅毒が陽性だとわかった場合、梅毒は胎盤を介して母子感染する傾向が強いため、胎盤が完成する妊娠16週くらいまでの間に治療を開始すれば抑止効果が高いとされています。
しかし妊娠初期で陰性であっても、コンドームを着用せずに性行為を行えば、その後の行為で感染する可能性があります。このようにして、胎児への感染に気づかないまま出産を迎えてしまうケースが増加していると言われています。胎児に感染すると流産・死産・新生児死亡や重度の先天性障害(聴覚障害、視覚障害、発達障害など)を引き起こすことがあります。
そのため検査後の梅毒感染を防ぐために、たとえ夫婦であっても腟内射精(中出し)を控えるだけでなく、性行為をする際はコンドームの着用がとても重要です。

クラミジア・淋病
母体に感染していると、出産時に赤ちゃんに感染し、新生児結膜炎や肺炎の原因となることがあります。また、早産や前期破水のリスクも高まります。
HIV
HIVは妊娠中・出産時・授乳中に母子感染します。抗レトロウイルス薬を適切に使用すれば母子感染のリスクを2%未満に抑えることが可能です。
B型肝炎
出産時に赤ちゃんに感染する可能性があり、将来的な慢性肝炎や肝がんのリスクが懸念されます。ワクチン接種など予防策を徹底しましょう。
ヘルペス
初感染が妊娠後期に起こると、新生児ヘルペスを引き起こすことがあり、命に関わる重篤な合併症につながる可能性もあります。
ヒトパピローマウイルス(HPV)
妊婦本人に大きな症状が出ることは少ないですが、まれに赤ちゃんの呼吸器にイボができる「乳頭腫症」の原因となることがあります。
トリコモナス症
早産や低出生体重児のリスクと関連しています。検査・治療で予防可能なため、妊娠前または妊娠初期にチェックをするようにしてください。

その他の妊娠中の性行為のリスク
挿入時の刺激
妊娠中、特に臨月に性行為を行うことで、子宮口に刺激が加わり、陣痛を促進する可能性があるという説もあります。科学的な根拠は限定的ですが、 実際に性行為による子宮の収縮や子宮頸部の刺激が早産や破水を引き起こすリスクもあるため、特に医師の指示が必要です。
オーガズムによるリスク
オーガズムによって引き起こされる子宮の収縮は、特に妊娠初期や後期には流産や早産のリスクを高める可能性があります。そのため、妊娠中はオーガズムを避けるか、軽度に保つよう配慮することが推奨される場合もあります。
嘔吐反射
妊娠中、特につわりの期間中は、嘔吐反射が起きやすくなります。挿入が難しいのであればオーラルプレイならばと思う男性もいるかもしれませんが、そう単純なことではありません。普段はオーラルプレイが問題ない人であっても、妊婦にとっては非常に辛くなることが多いため、パートナーがその点を理解し配慮することが重要です。
またパートナーが体調上問題なくても、オーラルプレイでも性感染症のリスクは無関係ではありません。例えば梅毒などは、口腔粘膜や皮膚の接触によっても感染します。オーラルプレイは挿入以上にコンドームの使用率が低い行為ですが、胎児への先天性梅毒感染を防ぐためにも、妊娠中は必ずコンドームを着用して口腔に入れるようにしましょう。
ホルモンバランスの変化
妊娠中はホルモンバランスが大きく変化するため、性欲の変動や性交時の不快感、潤い不足による痛みなどが生じることもあります。これらは無理をせず、体調に応じて調整することが大切です。

時期別の妊娠中の性行為の注意点
妊娠初期の性行為
一般的に、妊娠15週頃までを妊娠初期と呼びます。胎盤が安定しておらず、流産のリスクもある時期。性行為は控えるか、非常に慎重に行う必要があります。体調が優れないときは無理をせず、パートナーに理解してもらいましょう。
妊娠中期(安定期)の性行為
妊娠15〜27週は妊娠中期にあたります。15週ころになると胎盤が完成し、いわゆる「安定期」と呼ばれる時期に入ります。体調も落ち着きやすくなるため、性行為が可能になります。パートナーとのスキンシップを再開しやすい時期でもありますが、感染症対策や体勢への配慮は欠かせません。
妊娠後期の性行為
妊娠28週〜、いよいよ妊娠後期に突入します。お腹が大きくなり、体勢や動きが制限されてきます。無理をせず、体調と相談しながら行う必要があります。体勢を工夫する、短時間にとどめるなど、妊婦の身体を最優先に考えましょう。
臨月の性行為
37週〜は臨月(生産期)に入り、早産の心配などをする必要がなくなります。赤ちゃんが十分に成長している時期でいつ生まれても安全とされていますが、胎児の成長も個人差があるため、妊婦検診で胎児の成長状況を確認する方が安全です。
臨月の時期の性行為は、一部では「陣痛を促す」との説もありますが、科学的な根拠は限定的です。出産が近づく時期でもあるため、医師に相談をしましょう。

妊娠中の性行為で使用したいアイテム
コンドーム
性感染症の予防と、精液による子宮収縮を避けるために必ず使用しましょう。ラテックス製や無香料など、妊娠中でも使いやすいタイプを選ぶとよいでしょう。
ラテックスは非常に密な素材で破れにくく、HIVやクラミジア、淋病などの性感染症の予防効果が高いとされています。
一方で、まれにラテックスアレルギーの人もいるため、その場合はポリウレタン製などのコンドームを使用するのが安心です。

潤滑ジェル
妊娠中はホルモンバランスの影響で腟内が乾燥しやすくなります。潤滑剤を使うことで摩擦を減らし、痛みや炎症を防ぐことができます。スムーズな挿入をサポートする厚みのあるテクスチャーの潤滑ジェルなら、より妊娠中でも挿入時の摩擦が気になりにくいでしょう。

また潤滑ジェルは出産後の性行為再開時にも役立ちます。産後はより挿入への恐怖感が強まり、ホルモンバランスの変化で潤いにくくなります。性行為を再開する際は、ぜひ潤滑ジェルを思い出して用意するようにしてください。ただし開封後は出来るだけ早めに使い切る方がいいため、再開時は新しく買いなおすといいでしょう。
妊娠中の性行為は、リスクを回避しながら楽しみましょう
妊娠中の性行為は、医学的に問題がなければ行っても構いません。ただし 性感染症に感染した場合、胎児に深刻な影響が出るリスクがあることは念頭に置いておきましょう。
挿入はもちろんオーラルプレイでも必ずコンドームを使用し、「中出し」は避けることが基本です。性感染症だけでなく、体調への影響、胎児へのリスクを最小限に抑えるためにも、無理のないスキンシップを心がけましょう。気になる症状があったり、不安がある場合は、早めに産婦人科の医師に相談してください。
※本記事の医師監修に関して学術部分のみの監修となり、医師が商品を推奨している訳ではございません。





